『  仕事  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

  だだだ  −−−  

 

一直線にゴール下へと走り込み〜〜  えっと? それから〜〜〜

「 ほらっ しまむらく〜〜ん  キャッチして〜〜 」

碧い瞳が ひた! とジョーを追ってくる。

 

     うわ〜〜〜  うわ〜〜〜〜〜♪

     えっへ♪ フランってば〜〜〜 カッコよすぎ〜〜〜

     こんな黄金の脚をもってるコっているかぁ?

 

亜麻色の髪をなびかせ彼女はすた・・っとジョーの横を駆け抜けてゆく。

 

     うわあ ・・・ ホントになんてキレイな脚なんだ ・・・

     うわあ ・・・ 何年も夫婦やってても気が付かなかったぁ〜〜

 

     うわあ うわあ うわあ ・・・ きれ〜〜〜〜

 

「 おい! 島村! ぼ〜〜っするな、走れっ 」

「 コーチ! アタシ、 ぼ〜〜っとなんかしてません〜〜〜 

隣のコートからお下げ髪の少女が高声を上げた。

「 あ お前のことじゃないんだ、島村。 こっちの島村のこと ・・・

 え〜〜〜い ややこしいっ  おい ジョーっ! ぼやぼやするなっ 」

「 は は はい〜〜〜 」

「 はい ゆくよ〜〜  あ 遅い おそ〜〜〜い ってばあ〜〜 」

「 へ 平気〜〜〜  か 加速そ〜〜〜ち! 」

 

     あ!?  あ あれれれ・・???

     奥歯の横にスイッチが ―  ない??? 

     え〜〜〜 どこ? どこ どっかに落としてきたっけか??

 

「 ちょっとぉ ??  ぶつぶついってる暇、 な〜〜しっ! 

「 だ〜〜〜 から  え〜 そのう〜〜 こっちから走ってぇ〜〜 」

「 ほらほらほら〜〜 口でぐだぐだ言ってないで 走れっ ! 」

「 ふぇ〜〜〜〜〜〜 ・・・ ああ なんだってこんなコトしてるわけだあ〜

  う?  うわあ〜〜〜〜〜 ・・・  」

 

    ばんっ !!!!   

 

フランソワーズのパスを ジョーは見事に顔面でキャッチした。

「 ・・・・ っとに ドジなヤツ  ・・・ ! 」

「 あ  あの ?? 大丈夫  島村君 ・・・? 」

「 フランソワーズ、放っておけ。  ヤロウの面に心配は不要だ。 」

「 え ええ ・・・ 」

「 おい〜〜〜  ジョー! フランの脚に見とれてないで! パスの練習しろ! 」

「 ・・・ う  ・・・・ は い〜〜〜 」

 ジョーは やっとのことでもぞもぞ ・・・ 起き上がった。

 

   って〜〜〜〜〜 ・・・・ !

   あ?  ヤベ〜〜 鼻血なんか出てら・・・

   カッコわりぃ・・・

     ??!  って サイボーグが 鼻血 ???

 

彼は水飲み場に走りつつ こそっと自分の頬をなでてみた。

「 ・・・って〜〜 打撲じゃん。 ええ?? じゃあ生身なわけ?? 」

水道を捻り ばしゃばしゃと顔を洗う。

 

   うぇ ・・・ 傷に沁みるなあ ・・・

   あは  こんな感覚 久しぶりだなあ 

 

ジョーはしばし 水の冷たさと傷の痛みをしみじみと味わっていた。

 

「 お〜〜〜い!!! ジョー!!! いつまで顔 あらってんだ〜〜〜〜 ! 」

コートの横からアルベルトの怒声が飛んできた。 

「 あ は ・・・ ふうん・・・ なんか夢でも これっていいかも な ・・・

 へ〜〜〜い 今 行くよっ !!! 」

島村クン は ちょびっと拗ねた顔をして それでもばたばたを走りだした。

 

 

 

  ピ 〜〜〜〜 ・・・!   よし 集合〜〜〜 !!

 

体育館にコーチの声が響く。 部員たちは散らばったボールを追いつつ集まってきた。

「 ・・・ ん〜〜〜〜 っと 」

ジョーはまだゴール・リングと格闘していた。

「 島村クン! 集合。 」

「 くっそ〜〜〜  なんで入らないんだ??  う〜〜〜 009ならこんなの

 朝飯前なんだが〜〜〜 

「 ! 島村クンっ !! 」

「 ・・・ く〜〜〜 また外れた〜〜〜  狙いがマズいのか? 」

「 !! ちょっとっ! 」

 

   ボンっ !   ジョーのシュート玉は横から飛んできたボールに弾かれてしまった。

 

「 うわお??  あ〜〜〜 フラン・・・じゃなっくてアルヌールさん ・・・」

ジョーは やっと彼女の存在に気がついた。

「 アルヌールさん、じゃないわ!  集合よ。 」

「 へ?  あ〜〜 ・・・ 」

「 ほら 早く!  下級生もそろっているのよ。 

「 あ ・・・ うん  い いて〜〜〜ててて 

フランソワーズは むんず! と彼の襟首をつかむとずるずると引っ張っていった。

「 遅い! 」

じろり。 薄水色の瞳がジョーを睨んだ。

 

   ひ ひえ 〜〜〜〜 ・・・ おっかね〜〜〜

 

彼は首を竦めて そう〜〜〜っとアルヌール女史の背後に隠れよう・・として   どむ。

彼女のバッシューに踏まれた。

「  いって ・・・ ! 」

「 ? ― そこ! 」

「 す す すいません ・・・ 」

素直に謝ったので それ以上の叱責は飛んでこなかった。

 

   な なんだ〜〜〜〜 ???  BGとの戦闘中だって睨まれたことなんか・・・

   ・・・ やべ ・・・

 

ジョーは身を縮めて 集団の最後尾に隠れた。

男子バスケ部の部長? と思しき男子生徒がなにか言っている。

 

   ? なんか よくわかんないよ? 日本語なのに ・・・

   ってか アレ、誰だ?? 

 

そう・・っと顔をずらせて前方を眺めれば ―  確かに見覚えのある顔だ。

 

   !  あ〜〜〜〜 アイツだあ〜〜〜  

   びりびり ばりばり〜〜  の! ・・・ 0010!!!

   あの! 片っ方だよ〜〜〜  どっちだっけか?

 

ジョーの驚愕をヨソに 彼はごく短くなにやら予定らしきことを口にしただけだった。

そして 最後にアルベルト・コーチが 一言。

 

「 明日は全力でゆけ!  本日は解散。 」

 

   え??  え 〜〜〜 もう明日が試合なのか〜〜???

 

ありがと〜〜ございましたっ!!!  部員達の大合唱で練習は終わった。

全員が動き始めるとすぐに ジョーはアルヌールさんの側に飛んでいった。

「 あ あ あの! 」

「 あ 島村クン? 」

「 ・・・ あ ・・・ さっきはど〜も〜〜 スイマセン〜〜〜 」

「 けじめ つけてね。 バスケ部は特に。  じゃあ明日、頑張ってね。

 女子の試合の方が先だから終わったらすぐに応援にゆくわ。  じゃあ ・・・ 」

  す・・・。  白い手が差し出された。

「 ・・・う  あ  え? 」

「 握手。 ってか バスケ部伝統のパワーを充電! よ。 」

「 は は  はい〜〜〜〜  あ ・・・ 」

  ゴシゴシゴシ。  ジョーは右手をユニフォームで擦りまくってから おずおずと出した。

「 男子バスケ部  お願いします。 」

「 は ・・・ はひ 」

 

     きゅ。   彼は畏敬の念をこめてその白き手を握った。

 

 じわ〜〜〜〜〜ん ・・・ !! 身体の中心にびびびび・・・っとオトコのぱわ〜が漲る。

「 健闘を祈ります。 」

猛き美しき女性 ( ひと ) は 小さい微笑みを残して去っていった。

 

 

      「 はいっ  アルヌールさん 頑張りますっ ! 」

 

 

 ぼすん。  最敬礼した ・・・ つもりがなにか布状のものを蹴っ飛ばしてしまった。

「 !? ・・・ う〜〜〜ん ・・・? 」

  ごそごそごそ ―  ジョーのすぐ隣で 誰かが動く気配がした。

「 ・・・ う? あ〜〜 す すみません〜〜〜 」

「 ・・・ ちょっとぉ  ・・・ なあに、 ジョーってば・・・ 」

「 だから! 必ずシュートを〜〜〜 アルヌールさん! 」

「 ねえ 寝ぼけたの?  ベッドで騒がないでちょうだい ・・・ 」

「 へ??? べ べ  ベッド ・・・??!  」

 

   がばっ!!   跳ね起きたその場所は ― まだ薄暗い寝室のベッドの上だった。

 

「 ここ ???   あ アルヌールさん ・・・・? 」

「 ・・・ なに言ってるの ジョー ・・・ 」

たった今 情熱を込めて見つめてくれた瞳が あの碧い瞳が ・・・ 若干不機嫌そうに

そして ぼ〜〜〜っと ・・・ 彼を眺めている。

「 え で ですから! 明日の試合では必ず !  アルヌールさんに教わった・・・ 」

 ぼす。  枕がジョーの顔を直撃した。

「 ―  む ぐ ・・・ 」

「 今 何時だと思ってるの? まだ4時すぎよ〜〜〜   ・・・ 寝て! 」

「 あ  あの ・・・ アルヌールさん ・・・ 」

「 はいはい 島村さん。  ご用件は後ほど伺いますので ― シツレイ! 」

< アルヌールさん > は ぼわぼわあくびをしつつ言うと、くるりと背を向けて

毛布の間にうずもれてしまった。

「  ・・・ あ  ・・・? 」

こそ ・・・  彼は隣に眠るヒトの側ににじり寄り しげしげと寝顔を見つめる。

 

   アルヌールさん だよ! 

   うん さっきさ〜 コートの中で飛鳥みたくドリブルして シュート決めてたよな?

   そんでもって 頑張ってね な〜〜んて励ましてくれた ・・・よな?

 

    ―  けど  このヒト ・・・ フランだよ  な?

   ぼくのオクサンで ぼくのコドモたちの母親で そんでもって

    ・・・  003だよ  な?

 

   さっき感激の握手した手って。  ぼくのオクサンの手、だよ な?

 

   あれ? ぼくってば なんだってウチのオクサンとの握手に舞い上がってたんだ・・・?

   あ〜〜〜 ぼく やっぱ疲れてるのかなあ 〜〜〜

 

ごそごそごそ ・・・  う〜〜ん ・・・

彼の視線を感じたのか ジョーの隣の女性はもう一回寝がえりを打つと完全に

リネンと毛布の間に潜り込んだ。

「 あ ・・・ あ〜〜 ・・・  明日、試合って張り切ってたんだけど ・・・

 ま いっか。  ぼくももう一回 寝よ・・・っと 」

ジョーも 盛大な欠伸をすると、こそ・・・っとベッドの端っこの方〜〜に潜り込んだ。

 

   ふぁ〜〜 ・・・ なんかよくわかんないけど ・・・

   うん きっと目が覚めればなんとかなっている  よな?

 

   とりあえず 今は  ―  寝よ〜〜っと 

 

 ことん。  セピアの髪はたちまちリネンの海に沈んでしまった。

 

 

 

 

 

  急がなくちゃ !   試合が始まっちゃうわっ 

 

彼女はさっきから最大級に速く脚を動かしていた。 目的地はまだ先・・・らしい。

ものすご〜〜く急いでいるのだが なぜか走るのは憚られた。 

ここで走るのはいけないことだ、とアタマがブレーキをかける。 

なぜだかわからないけれど ・・

 「 う〜〜〜〜 なんだってこんな日に生徒会の会議なんかあるわけ〜〜〜??? 」

 

    え?? せいとかい ・・・って なに、それ???

 

自分自身の口からでた言葉が 耳にひっかかった。

「 え???  わたしったらなにを持ってるわけ??? え  えええ ?? 」

ずっと歩きにくいなあ・・・ と思っていたのだが。

今 明るい日差しの中で 彼女は大きな紙の束を抱えているのに気がついた。

「 う そ??? なんなの〜〜〜 これって・・・ 紙媒体??  

 いいえ いいえ そんなわけないわ〜  だってわたし・・・眠ってたのよ? 」

 

    ここは !?  ねえ それって   なに???

    え え〜〜〜 なんなの〜〜〜〜 

 

 かっつん。  ― 定石通り! 曲がり角で躓いて 抱えていた紙の束を放り出して転んだ。

「 ・・・ った〜〜〜〜〜 ・・・・ もう なんだって転ぶわけ? 

 こんなトコで〜〜 信じられない!  003の目は何を見ていたのよっ?! 」

自分自身を罵倒しつつ それでも単純に膝小僧が痛くてなかなか立ちあがれない。

「 これ ・・・ 僕が拾うから 」

頭上から のんびりした声が降ってきた。

「 ・・・ あ? わ〜〜〜 ありがとう 〜〜〜〜 うん? 聞いたことある声 ね? 」

膝をさすりつつ ― 出血な〜し。 骨も靭帯もお皿も ・・・ 無事!  と自己点検をする。

「 え〜〜っとぉ ・・・ これで全部だと思うよ〜〜 おねえさん。 

  ズサ。  紙の束が かなりぐちゃぐちゃになっていたが一応ひとまとめになって

差し出された。

「 ・・・ あ〜〜  ありがとう!  助かりました。 」

「 えへ♪  あ  怪我しなかった、おねえさん。 」

「 え ええ ・・・ 何とか打撲だけみたい。 」

「 よ〜かったね〜〜〜 バスケ部のおねえさん。 」

   にこ。  目の前の赤茶の瞳が ほんわか〜〜〜・・・・笑った。

 

     ?   え !!!  す  す  すばる〜〜〜????

 

じゃ ね ・・・ にこっとまたまた笑って彼はくるりと背を向けた。

「 !!! ちょ っとまって!  あの〜〜〜 あの ・・・ す ばる ・・・? 

ぴた。 少年の脚が止まりゆっくりと振り向いた。

「 僕 島村すばるだけど。 お姉さん、 呼び捨てはいけないと思うよ。 」

「 え  ・・・ あ  そ そうね・・・ でも家族なら 」

「 僕とお姉さんは家族じゃないでしょう? 」

「 !!!  わたしは! すばる・・・クンの! 」

「 うん、オトモダチだよね〜〜 だから すばるクン って呼んでいいからね。 」

「 ・・・ あ  あり がと ・・・ すばる ・・・ クン ・・・ 」

赤茶の瞳がとて〜〜も嬉しそう〜〜に笑った。

 

     マズったわ〜〜 すばるってば結構 プライド高いのよね〜〜

 

「 おねえさん? 試合、もうすぐ始まるよ? 」

「 え!?  あ ・・・ ああ そうだった わ ・・・ ありがと、すばる ・・クン。」

「 ばいばい〜〜〜〜 」

年上キラー? の笑顔を見せて すばるクン は行ってしまった。

 

     な なんなのよ〜〜〜〜〜 !?

 

「 ・・・ ともかく 体育館へ急いでいたのよね・・・< わたし > は・・・

 行かなくちゃ・・・ 試合 って何の試合かしら・・ 

パンパン・・・とスカートを払い あちこちを引っ張ったりリボンを結びなおしたりして

彼女はやっと立ち上がった。

「 そんじゃ ・・・ 体育館 行ってみなくちゃ ・・・ よっこらせ 」

書類、というか紙の束を抱えなおし、フランソワーズは再び速足体勢となった。

 

 

    わ〜〜〜〜〜〜〜  いけぇ 〜〜〜〜〜〜〜 !!!

 

体育館は 悲鳴っぽい高声と応援の蛮声と駆け抜ける足音がまぜこぜになり

熱い空気ではち切れそうになっていた。

「 えっと ・・?? シツレイしま〜〜す ・・・ 」

こそっと人垣の間から 首を差し伸べてみた。  

「 あっちゃ〜〜〜 試合、始まってる〜〜〜  男子が先だったのね ・・・ 」

「 ?  あ 〜〜〜 アルヌール女史〜〜〜  ねえ スゴイよ〜〜〜 

 めっちゃかっこいいと思わん?  ほら! 」

目の前にいた女子生徒が びし!っとコートに向かって指さした。

「 あの ・・・ ヒトに向かって指をさすのは 」

「 え?? なに???  あ〜〜〜 また入ったぁ〜〜〜 」

「 え???    う  わ〜〜〜〜 」

赤い旋風がコートに吹き荒れる ・・・

男子バスケ部はいつもはエースの赤毛の一人舞台・・・ というか 他のメンバーは

ただ ただ 彼をどたばた追い掛けているだけ、という試合なのだが。

( いや それは試合とは言えないだろう )  今日は違っていた。

赤いバンダナでまとめたはずのセピアの髪が 風に靡く。

その風を切って 9番背番号は4人の仲間と巧にフォーメーションを組んでゆく。

「 ピュンマっ!  頼む 〜〜〜 」

「 オッケ〜〜 任せろ、ジョー!  」

「 グレート、 ピュンマの先を! 」

「 了解仕った〜〜〜 ジョー。 

「 ジェロニモ〜〜  ゴール下。 」

「 むう。  ジョー。 」

コートの中を自在に走り ほんの二言 三言を交わすだけでチームはちゃんと起動してゆく。

「 切り込め、ジョー! 」

「 ―  りょ〜うかい♪ 」

   だだだ −−−−  ・・・・ 赤いバンダナが突如 加速 した。

エースはセピアの髪をゆらしつつ難無く敵のデイフェンス陣を突破してゆく。

 

   !?!? うっそ〜〜〜〜〜〜 あれってジョー ・・・???

   ・・・ どっちかっつ〜と 009 だわねえ〜〜〜

 

フランソワーズはぽか〜んと口を開けたまま試合を眺めていた。

「 う〜ん  やっぱり島村先輩はすごいわあ〜〜〜 」

すぐ隣でとて〜も聞き覚えのある声がした。

「 ? ・・・ え〜〜〜〜 す す  すぴか?? 」

「 ― ? 」

自分と同じ色の髪をぎっちりお下げに編んだ少女が じ〜〜〜っと見上げてきた。

「 あ  ぁ〜〜 ? 」

「 あの。 上級生のおねえさん。 アタシになにかごようですか? 」

「 え ・・・ い いえ  別にそのう〜〜〜 」

「 そうですか。  あの! アタシは確かに 島村すぴか ですけど。

 初対面での呼び捨てはシツレイだと思います。 

「 しょ 初対面って・・・  ( あ。 なんかすばるもそんなコト言ってたわね?) 」

「 アタシ、おねえさんと知り合いじゃありません。 」

「 ・・・ ( アナタを産んだのは! このわたしなんですけど! ) あ〜〜〜〜

 そ そうでした、ごめんなさい。  すぴかさん。 」

「 ・・・・・ 」

「 あのぅ ・・・ アナタ、あの 島村クン の・・・ 妹さん? 」

フランソワーズは 恐る恐るコートを疾走するエースを指さした。

「 ちがいます。 全くの他人です。 」

「 ( うっそ〜〜〜〜 アナタはジョーの子です、間違いなく! ) あ そ そう・・・ 」

「 あ アタシ、 この後の女子の試合、応援しますから。 シツレイします。 」

ジャージ姿のすぴか嬢は 亜麻色のお下げをピンピン跳ねかせて行ってしまった。

「 ・・・ あ  はあ ・・・  な 何なの〜〜〜〜 これって!? 」

 

  わ〜〜〜〜 !!!  体育館の中の歓声はますますヒートアップしてきた。

試合は佳境に入ったらしい。

 

     と ともかく!  ゲームの結果を見届けなくちゃ。

     

フランソワーズはぐずぐずの紙束抱え直すと 裏口に回った。

「 こっちから入って ― 二階のキャット・ウォークから観戦するわ。

 その方がゲームの展開とかメンバーの配置とかがよくわかるもの・・・ 」

 ― 要するにじ〜〜〜っくり誰かさんを観察したいのだ。

「 えっと・・・ああ こっちね。 ― あら わたしどうして道順とか知っているのかしら。

 ・・・ま いっか。 どうせ夢なのよ ・・・ 多分 ・・・ね??? 」

一体何がどうなってこんな環境にいるのか皆目見当がつかない。

 「 けど ・・・ 皆知ってる顔ばっかりだし。 ええ きっとなんとかなるんだわ。 」

腹を括った、というか生来の楽観的な性格というか フランソワーズは落ち着いたものだ。

現状を観察するためにも! この試合の結末を見届けなければならない。

 

  いけ〜〜〜 いけ シマムラぁ〜〜〜〜 !!!

 

  きゃあ〜〜〜〜  島村さ〜〜〜ん  きゃあ きゃあ〜〜〜〜

 

キャット・ウォークに出た途端に ぼはっと吹きあがってくる熱気と歓声に

思わず足元が揺れた。

「 すご ・・・  ってか < 島村さ〜〜ん > って黄色い声は・・・

 確かに < ジョー > に向かって投げかけられている のよねえ〜〜〜 」

ため息、 吐息 ... で観戦するつもりが ― 

「  シュートっ!  ほらほら〜〜 そこですぐ元に戻る! ぐずぐずしない!

 あ〜〜〜 ほら 行けってば〜〜 そこの茶髪〜〜〜 

熱気に煽られ試合に気持ちをひっぱり込まれ  ・・・ いつしか熱心にジョーを追っていた。

「 いけ〜〜〜〜 っ! そこでシュートよっ!!  あ〜〜〜 だめじゃん〜〜〜 」

「 おい。 ずいぶんと熱心だな〜〜 」

「 だから〜〜    へ??? 」

またまた突如隣から声が飛んできた。

  ・・・ え  ・・・!?  ま  まさか ・・・ この声 ・・・?

「 熱心なのはいいが。 その資料、くしゃくしゃにしないでくれ。 」

「 は  はい ・・・ 」

「 はん 一応これは生徒会長の責任だからな〜 」

 

    ??? せいとかいちょう?  なに それ??

    だってだって この声は ・・ この声は −−−

 

「 ・・・  ジャン兄 さん ・・・ 」

おそるおそる顔を向けたそこには ― 懐かしい兄が手すりに長身を折って試合を見下ろしている。

「 こら。 校内じゃ < アルヌール先輩 > だろ?  」

「 あ ・・・ ええ  でも 誰もいないし ・・・ 」

「 まあな。  おい資料、よこせ。 お前、散逸させてないだろうな? 」

「 え ええ ・・・ 一応死守してきた つもり ・・・ 

「 よ〜し。  ― ふん お前も好きなのか。 

「 へ???  」

「 ・・・ だから アイツさ。 」

兄は ひょい、と資料の山から一枚プリントを抜くと千切りはじめた。

「 あ〜〜〜  ジャン兄・・・じゃなくて アルヌール先輩!  そんなコト

 やったらダメよ!  後でお掃除する身にもなってちょうだい。 」

「 ・・・ あ  あ ああ  」

妹の剣幕に押され、 兄はぎくしゃくと手にした紙片を束の中に戻した。

「 ふ〜〜ん ・・・ あんまり喧しいとアイツに嫌われるぜ〜 

「 アイツって ―  誰よ! 」

「 だ〜〜〜から。  ジョー だろ。 お前の視線、アイツしか追ってないもんな〜  」

「 そ そんなコト ・・・ ある かも 」

「 だろ。  ふん ・・・ まあ な。 アイツもいろいろあったけど ― いいヤツさ。

 じゃなかったら仲間達が着いてゆくワケないものなあ ・・・ 

兄はひょい、と眼下で繰り広げられている熱線を指した。

「 ええ  ええ  そう なのよ! 」

「 アルベルト・コーチは指令をだすが ― それを的確にメンバーに伝え

 フォーメーションを組み立て 試合しているのは ジョーだ。 」

「 ・・・ ええ。 」

「 アイツには リーダーの素質があるんだ。 」

「 そ そう  ・・・ ね 」

「 ファン、 お前〜目が高いな。 さすがに俺の妹だ。 」

「 え? 」

「 ジョーを <見つけた> ことさ。こうと決めたら―ヤツに死にもの狂いで着いて行け。」

「 お兄ちゃん ・・・ 」

「 いいな。  それがヤツを支えることにもなるんだから。 」

「 ん。 」

「 ・・・ じゃ な〜〜 ああ 俺もまたやりたくなってきたぜ〜〜 」

わさわさ手を振ると 兄はキャット・ウォークから身軽に降りていった。

 

    わ〜〜〜〜  きめろ〜〜〜 しまむら〜〜〜〜!!!

 

コート・サイドでの歓声は 一段とヴォリュームアップした。

「 ・・・ 兄さん ありがとう!  わたし ちゃんと言うわ。 あとは勇気だけよ!

 ( ちょっと練習しておかなくちゃ  ・・ す〜は〜〜〜〜  )

 

      ―  島村クン!!  す 好きです〜〜〜〜   」

 

 

 

 バサ・・・!  アタマの上に毛布が落ちてきた。

「 ・・・・ う ・・・?? な なに?? 体育館の暗幕が落ちてきたのかしら ・・・ 」

「 ・・・ フラン〜〜〜  どうした ・・・?  」

「 へ???  ど どうした ・・・って。 今から島村クンにコクって来ようと 」

「 ・・・ ああ? こくる??  」

「 だ〜〜から!  えっと ・・・ し 島村クンが す 好き ですって 」

「 ?  お〜〜〜 そりゃどうも  ぼくのオクサン。 」

 

  わさ ・・・ 大きな手が彼女のアタマを抱き寄せた。

 

「 う〜〜〜 な な なに〜〜? 

彼女は懸命にその手を振り払おうとした。

ガサ ゴソ ・・・ 二人はそのまま縺れあったまま床に転がり落ちそうだ。

「 え?? えええ ・・・??  うっそ〜〜〜〜 」

「 お〜っと ・・・ 奥さん、休日の朝から場外乱闘は許してください? 

「 ・・・ ここ ・・・ ウチよねえ・・・ 」

「 ??  そうだけど ・・・  なんだい??  」

「 ・・・ ジョー よねえ? 」

セピアの瞳が 優しく自分に向けられているのがよ〜〜くわかる。

「 フラン ・・・ まだ早い、もう一度寝よう ・・・ 寝ぼけてるよ?  」

大きな掌が ほんわり背中に当てられる。

「 ―  ジョー  よね!? 」

「 はい 奥さん。 ぼくは間違いなく島村ジョー ですよ〜 」

「 そう  よねえ ・・・  そうに決まっているわよねえ・・・ 」

   ぴと。  亜麻色のアタマがいきなりジョーの胸に張り付いた。

そのまま パジャマの前を開き彼の胸板に頬を摺り寄せた。

「 うわあ?  な なんなんだ〜〜〜 ? 」

「 ・・・ ん〜〜〜  確かに絶対に確実に  ジョー だわ。

 うん この匂いはジョーのニオイだもの・・・ あ〜〜〜 よかったあ〜〜 」

「 ? なんだか朝っぱらから積極的だねえ〜 ・・・あ♪ いいよ、元気だから? 」

「 ふぁ〜〜〜  ああ 安心したら急に眠くなっちゃった・・・

 ・・・ おやすみなさい〜〜 ・・・  ちゅ。 」

ほっぺに小さなキスを落とすと ジョーの細君はくるり、と背を向けて寝入ってしまった。

「 !? お おい〜〜〜〜 さんざん起こしておいて〜〜 そりゃないだろ?? 」

「 ・・・・ ん 〜〜〜 ・・・ 島村く〜ん ・・・ スキ です ・・ 」

「 はいはい そりゃどうも。 10年以上夫婦やってんですけどね〜〜〜 」

ちょん、と彼女のハナのアタマにキスしてみたけれど、長い睫はぴたりと閉じられたまま。

「 ちぇ。  ま  いっか ・・・ きみの寝顔をみつつもうちょっと寝るよ ・・・ 」

ジョーは彼の細君をゆるり、と抱いたまま毛布の中に潜り込んだ。

 

   ・・・ ふぁ〜〜 ・・・  

   ??  あ  あれ??  なんかバスケに試合やるんじゃなかったけか・・・

   ・・・ さんざん練習してた気がするんだけど ・・・

 

   ま  いっか ・・・

 

 ことん。  彼もたちまち心地よい睡魔に捕まってしまった。

 

 

 

「 −−− はい。  ・・・・ う〜〜ん?  そっか〜〜〜

 お父さん と お母さん に???  でもぉ〜〜 えええ〜〜〜〜 ・・・・ 」

すぴかはリビングでとてもとても熱心に受話器を抱え話込んでいる。

「 ― 大分 長い国際電話ですな。 ウチのお嬢さんは。 」

ジョーは新聞の陰から フランソワ―ズに囁いた。

「 うふふ ・・・ 気になる? 」

「 当然だろ〜〜 すぴかはぼくの娘なのに〜〜〜 」

「 だからそれは! この前さんざん話たでしょう? 」

「 けど〜〜〜 」

「 娘のため、よ。 ・・・少しくらい電話代が嵩んでも〜〜 でも長話はちょっとね・・

 すぴかさん? お話はまだ終わらないの?  ―  え ・・・ 」

 

「 うん♪ わ〜〜〜〜 ありがとう〜〜 アルベルト伯父さん!

 ドイツの時刻表〜〜って 僕 初めて〜〜〜  」

 

フランソワーズが新聞の陰から見たのは ―  すばるのにこにこ顔 だった。

「 す すばる???  すぴかは??? 」

「 なに〜〜 お母さん。 」

ひょこん、とすぴかが ジョーの広げている新聞の中に入ってきた。

「 うわ?? あれ〜〜〜 すぴか、電話は ・・・ アルベルトおじさんと ・・・  」

「 電話?  うん お話終わったもん。 すばるもお話したいって言うからさ〜 」

「 あ ・・・ そ そうなの ? 

「 うん。 アイツもアルベルト伯父さんに質問があるって。 」

「 へえ ・・・ あ! ねえねえ どうだった? 

 すぴかの質問にアルベルトおじさんはアドバイスをたくさんくれたかしら。 」

「 う う〜〜〜ん ・・・ なんかね〜〜〜 お前の両親に聞け だって。 」

「 え ? 」

「 あの二人に教えてあるからって。 」

「 教えて ある? 」

「 うん。 司令塔の役割は〜 って聞いたらさ。 お前がメンバーと仲良しなら大丈夫だぞって。 

 ねえ お母さん、  きごころがしれている   って なに。 」

「 き ・・・   なに? 」

「 あ〜 それはね、 すごく仲がいいってことさ。 」

「 ふうん ・・・ それならアタシ達のチーム・メンバーはオッケーかなあ・・・ 」

「 そうだね。  チームが仲良しなら それだけもかなり有力だぞ。 」

「 そっか〜〜  あ そうだ そうだ。

  お前の父さんとはいい仕事をしたんだ って アルベルト伯父さん、言ってたけど

 お父さんとアルベルト伯父さんって一緒にお仕事、してたの? 」

「 ・・・ あ〜〜〜〜 う〜〜〜ん  まあ な ・・・ 」

「 へえ〜〜〜??? どんなお仕事? 

「 チーム・ワークが一番大切ってお仕事よ。 」

フランソワーズが助け船を出してくれた。

「 ふうん ・・・ あ それでね〜 お前の母さんが最強なんだぞ〜〜って。

 お母さん、 ・・・ 強いの? 」

「 え ・・・ 」

「 そりゃ〜〜そうさ。 お前たちもよ〜〜〜く知ってるだろ。

 ウチで一番〜〜 強くて 一番〜〜〜 おっかないのは 〜〜〜 」

 

   「「「  おかあさん 」」」

 

父と子供達が にこにこ合唱した。

「 ま まあ〜〜〜 すばるまで〜〜〜 」

「 だって本当だもん、 ね〜〜〜 お父さん。 」

「 うん。 な〜〜〜 すぴか。 」

「 そっか♪  ね〜〜〜 すばる。 」

「 もう〜〜〜〜 皆してぇ〜〜〜 」

  はははは   ふふふふ   えへへへ   うふふふふ   

 

                    島村さんち は今日も賑やか ・・・

 

 

 

  わ〜〜〜〜  パスパス〜〜〜〜  行け〜〜〜〜  ダダダダ −−−!

 

新人戦の決勝戦 ― 体育館はもう大盛り上がりで屋根も吹っ飛びそうだ。

皆の視線は 白熱した試合にくぎ付けである。

 その隅っこで ・・・ コソコソ突き合っているカップルがいた。

「 ねえ ジョー。 もしかして バスケ、やってたんじゃない? 」

「 フランこそ ・・・ 緋色のエース とか呼ばれてただろ? 」

セピアの瞳と碧い瞳が真剣に見つめ合い ・・・ 次の瞬間 

 

         「「  そんなはず ないよ(わ) ねえ 〜〜〜 」」

 

島村すぴかさんの両親は声をあげて笑い そして再び娘のチームの応援に声を枯らした。

 

 

 

***************************    Fin.    ****************************

 

Last updated : 26,08,2014.                 back       /      index

 

 

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例によって何事もおきません、 夏休みの夢???

女子バスケってカッコイイよね〜〜♪♪